事の顛末

「最後の一撃はそっと 私の頬を優しく撫でて」

           少女のつづき/ポルカドットスティングレイ


推しが、卒業する。

時間って止まるんだな、と思った。

いつも通り推しがかわいい〜ってばかみたいなツイートをして、少し目を離して、Twitterを更新した瞬間に目に入ってきただいすきなひとの名前と、卒業の文字。

周りの音が消えた、声も涙も、何も出てこなくて、携帯を握りしめたまま、その文字を見つめたまま、1時間は経ったと思った。時計を見たら、10分しか経っていなかった。


何も考えられなくて、何も考えたくなくて、
数時間経ってからやっと涙が出てきて、
声をあげて泣いた。
久しぶりだった、こんな風に泣くのは。

だいすきな子が、卒業を発表した夜のことだった。

 

 

2年前、しょうもない恋愛で最低の場所まで沈んでいた愚かな私は、彼女に出会ってしまった。


聴きたい曲も無くて、かなしい曲で傷を抉ることにも飽きて、底抜けに明るい曲を聞くのも嫌で、惰性で開いたYouTube

おすすめに出てきたのは、所謂"全盛期"のモーニング娘。の映像だった。

そういえば小さい頃は好きだったな、と思いながら虚ろな目で再生したのを今でも覚えている。

あの冬の日、あの瞬間が無ければ、私は今ここでこの文章を書いていないし、あんなにしあわせな日々を過ごせなかったし、こんな風に泣いたりしていない。

 

愛、夢、希望、未来、それに付随する輝かしい感情、そういうものを歌う曲が大嫌いだった。

たったひと握りにしか叶えられない夢なんて、ここまで狂ってしまった世界に希望だなんて、馬鹿みたいだと思って生きてきた、なのに。


"努力 未来 A Beautiful Star!"

胸が高鳴った。


"晴れの日があるから そのうち雨も降る"

涙が溢れた。


"宇宙のどこにも見当たらないような
約束の口づけを原宿でしよう"

衝撃だった。
今まで出会ってきた歌詞の中でいちばん美しくて、いちばん好きだと思った。


こうやって"あの頃"のモーニング娘。を好きになって、
どんどんのめり込んで、
いつの間にか"今"のモーニング娘。に辿り着いたのが、
2019年の年末。


そこにいたのがあなただったんだよ、
加賀楓ちゃん。


その頃はまだ名前も知らなかった。
ショートカットで凛とした綺麗な女の子が
ひどく苦しそうに、
「こんなもののために生まれたんじゃない」
「どこにも居場所なんてない」
と歌う姿に、異様なまでに惹かれたのを、あの時の感情を、鮮明に覚えている。
どうしてこんなに苦しげな声で歌えるんだろう、
成功して脚光を浴びてきらきらしているはずのアイドルが、
こんなに苦しみの感情をのせて歌えるものなのか。
もっと聴きたい、この子のことをもっと知りたい。


かえでちゃんの歌う「月光」を聴いた日、
あの日から、私の人生は変わった。
誇張なしに、本当に変わったんだよ。


深くて暗いところにいた私が
毎日しあわせだと自信を持って言えるのは、
晴れた日の朝に大きく息を吸えるのは、
好きという感情で涙を流せるのは、
あんなに綺麗な景色をたくさん見られたのは、
背筋を伸ばして前を向けるのは、
ぜんぶぜんぶ、あなたのおかげで。

だからあと3ヶ月、3ヶ月が過ぎても、その後も、
きっと毎日のように泣いてしまうけど、
私は私で、かえでちゃんのことをずっとだいすきなまま、生きていく。